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デジタルシフトが進む中、JINSとトライアルはリアルとECの境界をどう塗り替えようとしているのか。
メガネのフィッティングを重視するJINSと、店舗のスマート化を突き進むトライアル。両社に共通するのは、単なるシステム刷新にとどまらない「組織変革」と「内製化」への強いこだわりです。
本記事では、2025年10月に開催されたセミナー(※)をレポート。AI時代の顧客体験から、事業スピードを加速させるIT戦略まで、OMOの最前線に迫ります。
※プリズマティクスセミナー「JINS・トライアルの事例で学ぶ! EC / OMOの最前線~AI時代のリアル店舗の位置付けとITシステムの再考~」にて、株式会社ジンズホールディングス 松田氏、株式会社トライアルカンパニー 古賀氏にご登壇いただいたパネルディスカッションセッションの内容をご紹介した記事です。モデレーターはクラスメソッド株式会社 取締役/プリズマティクス株式会社 代表取締役 CEO 濱野 幸介が務めました。
1.リアル店舗の位置づけ—ECと融合した顧客体験設計のあり方
JINSはECサイトも運営していますが、EC化比率は5%を切る水準です。これはメガネという商材の特性上、顔へのフィッティングや視力測定が必要なため、現時点では100%オンラインでの購入が技術的に難しいことが主な理由です。今後はEC化比率を上げていく方針ではあるものの、「ECの売上を増やすこと」が目的ではなく「お客様に対する選択肢を増やすこと」を目的として捉えています。
具体的なOMO施策として、リアル店舗での初回購入で商品・視力・サイズ情報を把握していただき、リピート購入はECでワンクリックで完結できる仕組みを目指しています。接客AIをリアル店舗から先行展開した理由も、EC比率の問題以上に「売上の95%を占めるリアル店舗のお客様の生のフィードバックをしっかり集め、どういうお客様に受け入れられるかを模索したい」という経営課題へのアプローチからでした。
トライアルでも、来店顧客が中心軸であることに変わりはなく、店舗のスマート化が最優先です。ネットスーパー・クイックコマースについてはさまざまなパターンの実験を重ねており、「重い水を宅配してほしい」ニーズや「すぐほしい」ニーズなど、お客様のさまざまなニーズに対してリアル店舗・倉庫・宅配を使い分けるハイブリッドな対応が効率的と考えています。リアルとECが完全に統合された「ユニファイドコマース」の実現を目線として基盤を構築しています。
2.ITシステム再考—組織とデータの統合なくして真のOMOは実現しない
JINSでは従来、ECの売上を見る組織・アプリを作る組織・店舗を見る組織がそれぞれバラバラで、システムも独自のデータベースと会員情報を持ちインターフェースで繋ぐという構造でした。「アプリで買った情報がECに反映されない」という顧客の不便がそこから生じていました。現在はデータはデータ、ロジックはロジックとして統一する方向で進めており、APIベース・マイクロサービス的アーキテクチャを採用しています。
ただしシステムの設計以上に根本的に重要だったのは、組織と意思決定プロセスの統合でした。チャネルごとに分かれていた組織を統一し、お客様のために何が最善かという視点で統一的に判断できる体制を構築しています。会社の規模が大きくなると組織間のコミュニケーションコストが膨大になるため、ある程度は「割り切る」ことも必要であり、常に「お客様はお客様である」という原点に立ち返る意識が土台として重要です。
トライアルはマイクロサービスアーキテクチャで構築しつつ、最も注意していることが「ブラックボックスを作らないこと」です。自分たちが手を出せない領域が生まれると、変えたい時に変えられず複雑な回避策が必要になります。自分たちの事業スピードを他者のスケジュールに縛られないようにすることが内製化の根本的な意義であり、「これで十分」になる日は来ない、常に進化し続けるものとして捉えています。
3.内製化・自社化の必要性とレベル感—競争優位の源泉をどこに置くか
JINSは採用の限界もあり100%内製化は方針として目指していません。ただし、基本アーキテクチャの設計と、そのアーキテクチャに基づいた実装を含めたレベルまで内部チームが一通り回せることはマストと考えています。開発ボリュームが多すぎる場合は内製チームにパートナーとスクラムチームを組む、同じアーキテクチャ思想のもとで開発を進めることでスピードを担保します。
| 観点 | JINS | トライアル |
| 内製化方針 | 100%内製化は目指さない。基本アーキテクチャと実装レベルは内部で回せることがマスト | 可能な限り内製。ビジネスの独自性・スピードが必要な領域は全て内製 |
| パートナー活用 | 開発ボリュームが多い部分はパートナーをチームに組み込む | プロジェクトの一員として1〜2名単位で参画させる形式 |
| 外部パッケージ活用 | ERPなど汎用領域はパッケージを活用 | 会計・給与システムなど汎用領域は市販パッケージを活用 |
| ブラックボックス方針 | 設計まで必ず抑え、ソースコードレビューを徹底してブラックボックスを作らない | ブラックボックスが生まれないことを最重要条件として内製化を進める |
| 競争優位領域 | メガネ業界特有の顧客体験・眼鏡知識を必要とする領域 | MD・需要予測・顧客データ活用など世の中にないビジネス固有の領域 |
両社ともに、採用については「頑張り続けるしかない」ということが率直な回答でした。トライアルは毎月東京に出向いてほぼ「目的採用」で活動を継続しています。JINSは5年間でITメンバーを10名強から40名規模へ拡大しており、採用・面接・スカウトが「仕事の半分」という時期を経験しました。エンジニアが働ける環境の整備も重要で、メガネ会社としてではなくエンジニアとしての評価基準を別建てで用意することが効果的であったとしています。
4.経営トップのコミットメントがプロジェクト成否を分ける—巻き込みの技法
両社に共通するのは「経営トップの理解とコミットメントが絶対的な条件である」という点です。JINSでは創業家主導の会社文化のため社内政治的な複雑さは少なく、CEOがプロジェクトオーナーとなることで意思決定が劇的にスピードアップしました。一方で「なぜそんなにお金がかかるのか、時間がかかるのか」という経営会議での議論は避けられず、IT担当役員1人が説明するスタイルから、業務担当役員も同席して「このシステムでビジネス効果を出すのは私たち自身だ」と示すスタイルに変えました。
トライアルではトライアルでは創業者自身がITを活用してきた経緯もあり、経営陣のITへの理解が深いという恵まれた環境があります。CDO(最高デジタル責任者)と社長が対話を重ねながらデジタル戦略の骨格を共同設計していることが、大胆な推進の背景にあります。
また、「失敗を許容するカルチャー」もプロジェクト推進の重要な土台です。JINSでは直近の全社会議のオープニングムービーが「失敗仕様」というタイトルでチャレンジを称えるものだったほど、失敗を前提にトライし続けることが全社文化として根付いています。ローンチして終わりではなく、ローンチ後も継続してビジネス効果を刈り取り、仮説が外れれば振り返って次へ進むこのサイクルを回し続けることがプロジェクト推進の本質だと両社は口を揃えます。
5.今後の展望—JINSは基盤刷新後の「新しい当たり前」、トライアルは業界変革へ
JINSは今期中にデジタル基盤プロジェクトをある程度完了させることを目指しています。刷新が完了すれば「開発スピードが3倍になり、技術的負債が一掃される」という効果を発揮でき、これまで停滞していた状態から脱却できます。その先には、AIを活用した業務変革や新しい顧客サービスの創出に、全員が楽しく取り組める環境が待っています。「新しい当たり前をつくる」という同社のビジョンをデジタル基盤の上で思い切り体現していく段階です。
トライアルは、欧米と比べて大きく立ち遅れている日本の流通業のDXを、自社だけでなく業界全体として変革することを目標に掲げています。かつて日本の流通業に変革の波が来たものの変わり切れなかった歴史を踏まえ、今こそデジタルによる業界横断のプロセス変革が実現できる段階に来たと確信しています。卸・メーカーとのデータ共有・共同プロセス設計、そして流通プラットフォームの構築を通じ、業界全体の生産性向上を「粛々と」進めていく姿勢を示しました。
6.まとめ
今回は、プリズマティクスセミナー「JINS・トライアルの事例で学ぶ! EC/OMOの最前線~AI時代のリアル店舗の位置付けとITシステムの再考~」のパネルディスカッションにてお話いただいた内容を紹介しました。
株式会社ジンズホールディングス、株式会社トライアルカンパニーのセッションレポートもございますので、是非ご覧ください。


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